自分を治癒する

三年前に心を病んで自宅療養中の娘と生活しています。ともすれば共倒れになりそうな危うい日々から脱出するため、自分を視野の開けるところに押し上げようといつも考えています。その中の一つが村上作品を読むことです。読後必ず元気がでてきて前に進もうという気がでてきます。作品の中で主人公がシャツにアイロンをかけたりシーツを洗ったり食事を作ったりときちんとした生活を送ること、又いろいろな困難を通り抜けることによって、あたかも自分も経験した感じになりすっきりしてきます。
これは村上さんが意図されていることなのでしょうか。
村上さんご自身、苦しみや悲しみからどのようにして立ち直っておられるのかお聞かせください。
(ひなたぼっこ、女性、62歳、主婦)

このサイトには「心を病んでいる」方からたくさんのメールが寄せられています。僕の本を読んでいる人に、とくにそういう方が多いのでしょうか? それとも全体的に世の中にはそういう方が増えているのでしょうか? わかりません。でもひょっとしたら前者かもしれませんね。河合隼雄先生と昔よく話をしたんですが、僕の小説にはそういう傾向があるというようなことを、先生もおっしゃっていました。

考えてみたら僕自身、自分を治癒するために小説を書いているという部分があるような気もします。自分がゆがまないように、できるだけいろんなものをまっすぐにするとか。ゆがんだものごとの中を通り抜け、それから外に出ることによって、自分を回復するとか。もちろんそれだけではありませんが、そういうところもたしかにあります。通過し、回復するというのが、僕の書く物語のひとつのテーマになっているかもしれません。もちろんこれは僕の私見ですが。

村上春樹拝