中国でも大人気

村上さん
こんにちは。作品を通して村上さんの一部と出会うことができた。ちょっとすまないという感じで、この手紙あるいは質問を提出したいと思います。

さて、中国人の大学院院生です。大学に入って日本語を勉強しはじめました。大学のとき、村上さんの作品を全然読んだことがありませんでした。『ノルウェイの森』は中国で圧倒的に人気があります。ひとが押し寄せたものに本能的に距離をおくからかもしれません。でも本というのはいいな、ずっとそこにいて読者を待っています。去年、内モンゴルでボランティアをしていたとき、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んでそれに魅了されました。ほかに、莫言、ガルシア・マルケスなどを読んで孤立無援の一年を過ごしました。誇張に聞えますが、文学に救われました。文学とはそういう力があると認識しました。『走ることについて語るときに僕の語ること』は私に走る勇気をくれました。去年、上海マラソンで10kmを走りました。何でも自分のペースでということがわかりました。これから、マラソン完走を目標として頑張ります。そのあと、『風の歌を聴け』から『海辺のカフカ』まで、年表順で中国語版を読みました。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のように、自分の失った「かげ」を見つけたい。『ノルウェイの森』の美しくて悲しい愛を心に刻まれました。『ねじまき鳥クロニクル』の戦争体験にすごくショックを受けました。『スプートニクの恋人』を一気に読み終わりました。展望台で分裂した自分の一部を見たという一節を読んで、眠ることができなかったのです。『海辺のカフカ』を読んで、少し夢のなかにいたと感じました。感動いっぱいくれました。

現在、全作品集を入手して日本語の作品を読みます。読み終わった作品をもう一回中国語版をとって日本語に逆訳して原本と比べます。語力向上のほか、文章を書くことを勉強するという下心もあります。ちなみに、1990年代以後の全作品はいつ出るのでしょうか。また、村上さんが紹介してくれた作家を読み始めた。今はレイモンド・カーヴァーとトルーマン・カポーティからはじめます。

卒論は村上さんの作品を取っていただくつもりで、なるべく村上さんのきらいな批評(「これはこうだ、それはそうだ」という)のようなものになることを避けるように頑張ります。作品のはじめから、「中国」「戦争」といったイメージがよく出てきます。これについて論説したいと思います。しかし、村上さんはなぜ中国に行ったことがないのですか。ファンが大勢いますけれど。質問はばらばらになって、すみません。はじめに言ったように、村上さんと交流したいと思います。ご返事があれば、すごくうれしくなると思います。
村上さんの次作を期待してます。お気をつけて。
(匿名希望、男性、24歳、学生)

中国には行ったことがありますよ。大連から列車に乗って、長春、哈爾浜まで行きました。ずいぶん時間がかかったけど、列車の旅は楽しかったです。硬座という二等車に乗ったんだけど、まわりの人たちはみんな友好的に、とても親切にしてくれました。降りるときにカメラを忘れたんだけど、近くの人が走って届けてくれました。それから内モンゴルにも行きました。本当に広い国で、いっぱい人がいるんだなあというのが僕の印象でした。広い国というのはすかすかな土地という思い込みがあったんですが、中国って広い国で、なおかつ混み合っているんだ、と驚きました。

たくさん僕の本を読んでくれてありがとう。がんばって勉強してください。

村上春樹拝