ナンカイな質問

はじめまして。村上さんの言葉に支えられて生きています。大学生のオノ・アーコ(仮名)と申します。今回はこのように質問できる機会をいただけて幸せです。村上さんは二つのうち一つを選ばなくてはいけないとき、どのように決めますか? 大学生活も残りわずかとなり、選択を迫られる機会が増えました。村上さんが何かを選択するときのモットーがあれば教えてください。寒い日が続きますので、どうぞご自愛ください。
(オノ・アーコ、女性、21歳、大学生)

すごく難解な質問です。何回読んでもよく趣旨がわからない(くだらない冗談)。二つのうち一つを選ぶって、いったい何を選ぶんですか? 選ぶものによって選び方も違ってくるでしょう。男を選ぶのと、職業を選ぶのとでは、話ががらっと変わってきます。

それはそれとして、今までけっこう長く生きてきましたが、僕は何かと何かからひとつを選んだという経験は、考えてみたらあまりないような気がします。それで人生ががらっと違ってしまったというようなこともとくにありません。あったのかもしれないけど、思い出せない。というのは、どう転んでも、僕は結局のところ僕だったんだろうなという気がするからです。何を選んだところで、それほど違う人間にはなれない。

ローマ時代に「ライオンか美女か」というのがありましたね。ドアがふたつあって、ひとつを開けると裸の美女がベッドから手招きしている。もうひとつのドアを開けると、飢えたライオンが待っている。どちらかを選ばなくてはならない。そういうのはたしかにむずかしい選択かも。ライオンがベッドに寝転んで手招きしているというのもちょっと困るな。

村上春樹拝