作家にとって「経験」とは

小説を書くにあたって作家の「経験」はどのくらい重要なものになると思いますか?  また、村上さんはこの経験を無視して小説を書くことは可能だと思いますか? 
(ネギもぐら、男性、25歳)

質問の趣旨がもうひとつよくわからないのですが、人は経験によってつくられますし、小説は作家という人間が書きます。ですから経験を無視して小説を書くということは、原理的に不可能です。ただ経験をそのまま書くか、そのままは書かないかという選択肢はあります。僕は経験をそのまま書くことは少ないです。というか、ほとんどないかもしれない。いったんフィルターを通して、別のものに作り替えて書きます。どうしてそんな面倒なことをするのか? 別のものに作り替えることによって、僕にとってその経験のリアリティーはかえって、より強いものになるからです。もちろんそうじゃないという作家もいますが、僕はそういう考えでもって小説を書いています。それであなたの質問に対する答えになっているでしょうか? 

村上春樹拝